社労士が答える職場のQ&A

【[在職定時改定」について教えてください】《令和4年10月掲載》

Q:現在68歳の年金受給者です。定年退職後に妻と会社を立ち上げ雑貨の販売店を経営し、社会保険にも加入しています。役員報酬額は顧問の税理士に相談して厚生年金の受給額に影響しない金額にしてきましたが、今年の秋に厚生年金の在職定時改定が始まるそうです。どんなことに注意すればよいのでしょうか。

A:厚生年金法改正により「在職定時改定」制度が導入されることになりました。この制度は「65歳以上で仕事を継続しながら厚生年金に加入している」「老齢厚生年金の受給資格がある」「9月1日の時点で厚生年金に加入している」という3つの条件がそろった場合、その前月である8月までの加入実績を年金額に反映して増額し、同年10月から増額された年金が支払われる仕組みです。ただし10月分と11月分の年金は12月支給なので、実際に年金の受給額が変わるのは12月からです。この制度の開始により前年9月から1年間の加入実績が年金額に反映されることになりますが、新制度が始まる2022年は65歳以降の加入実績がまとめて反映されるため、増額は大きいと思われます。早めに年金事務所に出向くなどして年金額の見込みを確認することをおすすめします。

【時間外の上限規制の猶予について教えてください】《令和2年6月掲載》

Q:当社は貨物の運送会社で運転手20名と営業職1名、事務職の2名で営業しております。毎年、時間外・休日労働に関する協定(36協定)の更新は7月1日に行っていますが先日、同業のA社長から「運送業は時間外の上限規制の猶予事業だから」と言われました。上限規制の猶予とはどういう意味でしょうか?


A:従来「36協定」で定める時間外労働時間には限度に関する基準(限度基準)が示されており、その上限が月45時間、年360時間でした。この限度基準の上限を超えることがあっても罰則はなく、また特定した期間についての特別条項を設けることで上限はない状態でした。これが2019年から大企業で、2020年4月1日からは中小企業でも法律上の上限が決められ、違反すると罰則が科されることになりました。これを上限規制といいます。ただし、いくつかの事業または業務については適用が猶予されています。なお運送業に関しては「自動車運転の業務」だけが猶予の対象ですから、A社長の話は少し違います。同じ会社であっても営業職や事務職は猶予の対象とはなりません。猶予を受ける運転手用と猶予対象外のその他の職種用の2通の協定届を作成するとよいでしょう。

【安全活動への取り組みについて教えてください】《令和2年5月掲載》

Q:当社は近年、採用を増やし今年度中にはパートやアルバイトを含めて50名を超える見込みの小売業です。これまでは大きな事故の発生がなかったので職場の安全には積極的に取り組んできませんでしたが、今年は安全活動を推進するように社長から指示がありました。どのようなことから始めたらよいでしょうか。

A:建設や製造関係の職場と比べると小売りや飲食、介護などの職場では重篤な災害の発生は少ないですが、件数自体は増加傾向にあります。そのうえ正規・非正規といった雇用形態の違いや副業・兼業、個人請負といったさまざまな働き方、高年齢労働者、外国人労働者も多い職場なので、安全な職場づくりと維持は容易ではありません。新たに安全活動に取り組むのであれば、厚生労働省が発表している「労働災害防止計画」の重点事項について検討するとよいでしょう。現在は2018年4月から2023年3月までの5年間を計画期間とする「第13次労働災害防止計画」の期間中です。ちなみに、現在の計画のテーマは「一人の被災者も出さないという基本理念の下、働く方々の一人一人がより良い将来の展望を持ち得るような社会」と示されています。ぜひ参考にしてください。

【メンタルヘルス対策について教えてください】《令和2年4月掲載》

Q:社員40名の建築業の総務担当者です。今までにメンタル不調による休職はありませんが、他社ではすでに休職者が出ているそうで、弊社の社長から具体的な対応の確認がありました。厚生労働省の「過労死等の労災補償状況」で労災請求が増えているニュースも気になります。基本的な検討項目を教えてください。

A:メンタルヘルス不調による休職を防ぐために企業には従業員のフォローが求められますが、その対応手順が明確でないことは珍しくありません。まずは厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」をご覧ください。そこには「メンタルヘルス不調」の定義や取り組み方法が示されています。会社としては、メンタルヘルス不調を未然に防止する「一次予防」、不調者を早期に発見し適切な措置を行う「二次予防」、休職者の職場復帰の支援などを行う「三次予防」。またこれらが円滑に行われる社内ルール。そして教育研修、情報提供と共に「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」の4段階のケアが、継続的かつ計画的に行われる役割の定義などを文章にして明確にするとよいでしょう。

【新入社員研修について教えてください】《令和2年3月掲載》

Q:友人とブライダル・プロデュース業を立ち上げて5年が過ぎ、社員も20名を超えました。これまでは社会人経験者を中途採用してきましたが、ようやく専門学校の卒業予定者を1名採用できました。4月にはこの新入社員を迎えることになりますが、新入社員研修ではどのような対応や心構えが必要でしょうか。


A:新入社員研修で着実な成果を上げている方法のひとつに指導員(ブラザー・シスター)制度があります。年齢の近い先輩社員が新入社員に仕事の進め方や仕事に対する心構えを指導するとともに、職場の人間関係など業務や社会生活における不安や悩みを聞きアドバイスを行う人材育成制度です。ある大手企業を対象にした調査によれば、新卒社員のうち3年以内に退社する人は大学卒で3割を超え、高校卒では5割、中小企業ではさらにその割合は高くなっています。若手社員の早期離職の防止は最重要課題のひとつであり、新入社員の気持ちを理解しつつ、就業におけるつまづきを解決する方法として指導員制度の導入は高い効果が見込めます。ただし指導員に全てを任せるのではなく、指導員を窓口担当として経営者、部門の管理者が一体となって運営する指導体制が必要です。

【夜間や休日のメール対応について教えてください】《令和2年2月掲載》

Q:IT企業で人事を担当してます。複数の社員から「上司から夜間や休日に仕事に関するメールやSNSメッセージが届きます。見れば対応せざるを得ないし、見ないでいると上司の気分を害する気がして仕事を離れても気が休まりません」と相談されています。対応策としてどのように進めればよいでしょうか。

A:仕事でメールやLINEなどを使うことが多くなり、それらを利用して勤務シフトの連絡を行う会社もあります。業務連絡や報告は仕事の一部なので勤務時間内に行うべきですが、連絡程度なら勤務時間外でも問題はないと思う人は多いようです。しかし、海外ではすでに「つながらない権利」まで認められています。発信者が連絡のつもりでも、それによって勤務時間外に仕事のことを考え、オフの時間が楽しくなくなって職場や仕事が嫌になり、最悪の場合、離職にまで進む恐れもあります。先に成立した「改正労働施策総合推進法」(通称パワハラ防止法)に照らせば「上司という優越的な立場で緊急ではない用件に対応させて労働者の就業環境を害した」としてパワハラに認定される可能性もあります。今回の相談を契機に時間外の連絡に関する社内ルールを検討するとよいでしょう。

【派遣社員の概要について教えてください】《令和2年1月掲載》

Q:システム開発企業の経営者です。これまでは私も含め10名ほど全て正社員でやってきました。今回、開発担当と事務担当で増員を考えているのですがなかなか採用に至らず、派遣社員を迎えることを検討しています。最近は派遣社員が同じ会社にいられる年数に制限もあるようですが、その概要を教えてください。

A:一般的に派遣契約とは求職者が派遣会社に登録した後、派遣会社が派遣先企業とのマッチングを行い、その決定後に求職者が派遣会社と雇用契約を締結するというものです。これが「一般派遣」と呼ばれる形態で、1人の者が同じ企業で働くことのできる期間は最長3年です。これとは異なり「無期雇用派遣」は派遣契約が反復され5年を超えて無期雇用契約となった派遣労働者を派遣する契約で、派遣先企業との契約が続く限り年数の制限はありません。また「紹介予定派遣」はあらかじめ派遣先企業での直接雇用を目指すもので、その企業で最長6カ月の就業後に双方が合意すれば正式採用が可能です。今後の人材育成を念頭に検討するとよいでしょう。なお2020年4月からは、派遣先企業にも教育訓練の実施や福利厚生施設利用への配慮が課されますので注意してください。

【高度人材(高度外国人材)について教えてください】《令和元年12月掲載》

Q:調理器具メーカーで経営企画を担当しています。海外での事業展開が決まり、まずはアジア市場の交渉や実務を統括できる人材を採用することになりました。求人倍率が高止まりする中、高度人材である外国人を採用するのも有効だと知人に聞きました。高度外国人材の採用前に、何を検討するべきでしょうか?

A:高度人材とは入館法上の在留資格における「高度学術研究活動」「高度専門・技術活動」「高度経営・管理活動」の3つの分類において、優秀な能力や資質を有する外国人研究者や大学教授、SE、会社経営者などを指します。貴社が求める「交渉や実務を統括できる人材」ならば「高度経営・管理活動」が対象でしょう。高度外国人材は、あくまでも書類上でそのポイントを満たすか満たさないかの判別で認定されます。認定のメリットは、一般的な在留資格と比較すると、いくつかの優遇措置を受けられることであり、即戦力として現場での活躍が期待できるかどうかではありません。即戦力としての人材を確保するという目的ならば、この仕組みに強くこだわる必要はないでしょう。実際の採用では、海外や国内の大学を卒業した外国人や実際に活躍している外国人を対象としています。

【「明日から来なくていいよ」と言われたら?】《令和元年11月掲載》

Q:製造業の経営者です。息子がこの春に就職したのですが先日、職場で直属の上司から「明日から来なくていいよ」と言われたそうです。本人の話によれば大きなミスもなく真面目に勤務していたとのこと。私自身は社員に対してこのようなことを言った経験はなく、息子にどうアドバイスしようか困惑しています。

A:ご子息にアドバイスをする前に事実関係を確認してください。どのような状況下で「明日から来なくていいよ」と言われたのか、上司の言葉は本意だったのか。もし本意であれば「退職勧奨」と「即日解雇」のどちらなのかも確認してくだい。さらに上司の発言の原因が、本人の遅刻や欠勤、現在の業務についての適性の問題、業績不振や事業縮小など会社都合によるものなのかも確認が必要です。その上で本人に退職の意向があるのかどうかを確認し、もし退職を検討中であったとしても会社に言われるままに退職届を出す必要はないでしょう。また配属職場の直属の上司が退職勧奨や解雇を口頭で通知することは通常ではないことですが、仮に上司の言葉が本意だとしても、会社は解雇理由と共に書面で通知する義務がありますし、労働者はそれに異議を申し立てることもできます。

【「ワーケーション」について教えてください】《令和元年10月掲載》

Q:IT関連企業で人事を担当しています。働き方改革が叫ばれている昨今、さらに人手不足感も高まる中で人材採用も難しくなってきており、魅力ある人事制度を考えるよう社長から言われました。そんなとき同僚から「ワーケーションは取り入れないの?」と聞かれました。これはどのような制度なのでしょうか。


A:最近、注目されるワーケーションとは「ワーク」と「バケーション」を合わせた造語で、休暇中に旅行先で仕事をした際に、それを勤務時間として認めるという新しいテレワークです。

欧米で始まった制度ですが、国内では日本マイクロソフト社が2016年、日本航空が2017年、JTBが2019年から導入しました。うまく制度化すれば社員の休み方の選択肢が増え、労働生産性や従業員満足度の向上、離職率の低下にもつながります。制度導入にあたり社内規則を整備する際には、勤務時間の連絡、情報のセキュリティ、通信費などの負担、緊急時の連絡体制などを決める必要があります。休暇中は本来、労働の義務はありませんので、それを踏まえて社内外とのコミュニケーションのルールや休暇中に行う業務内容や範囲など決めるべき課題を洗い出すとよいでしょう。

【従業員のSNS対策について教えてください】《令和元年9月号掲載》

Q:飲食店を運営する企業で人事を担当しています。昨今の「バイトテロ」と呼ばれるアルバイト従業員による店舗での不適切な行為の動画投稿や、従業員がSNSに自社やお客さまについての不適切な書き込みをしていわゆる炎上が起きるのを見るにつけ対策の必要性を痛感しています。何をすればよいでしょうか。

A:従業員によるSNSトラブルが大きな社会問題になっています。そもそも従業員には「職場のことや仕事上に知った情報を外部に漏らさない」という守秘義務があり、これに関する教育を徹底しないと問題は起きやすくなります。また「情報内容によっては発信しても構わない」と従業員に思わせるようなあいまいさも危険です。守秘義務など従業員として守らなければならない事項を明示した誓約書に、SNSに限らず情報漏えいに起因するトラブルが発生した場合には懲戒処分の対象となることや処分の内容、会社が被った損害額を弁償させることも明記し、アルバイト、パート社員を含めた全ての従業員に提出させましょう。さらに教育や研修を定期的に実施し、具体的な事例を交えながらSNSトラブルは会社や顧客だけでなく自身にも不利益になることを周知徹底しましょう。

【3カ月のフレックスタイム制とは何ですか?】《令和元年8月掲載》

Q:入社8年目のソフトウエアエンジニアです。社長の発案で部署横断の働き方改革推進チームが結成され、その一員に選ばれました。ただ今、働き方改革法について勉強中です。2019年4月から全企業対象に施行された項目に「3ヵ月のフレックスタイム制」というのがありますがどのような制度でしょうか?

A:フレックスタイム制とは、一定の期間(清算期間)についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で日々の始業・終業時刻、労働時間を労働者自らが決めることのできる制度です。これにより労働者は、自分の都合に合わせて時間という限られた資源を仕事と家庭にバランスよく配分することができます。制度導入には就業規則で定めることと労使協定が必要で、会社は清算期間を通じて法定労働時間まで勤務させることができます。

1カ月以内という従来の清算期間は3カ月に延長されました。これにより例えば、6月と7月に多く働いて8月には少し長い夏休みを取ることも可能となります。労働時間の柔軟な調整が可能となりましたが、清算期間を通じて週平均40時間を超える時間と1カ月ごとの労働時間が週平均50時間を超える時間は、従来と同様に割増賃金が必要です。

【国民年金と厚生年金について教えてください】《令和元年7月号掲載》

Q:今春、機械メーカーに就職し人事部に配属されました。先輩に実務を教わりながら、人事制度や社会保険について学ぶ毎日です。学生時代は国民年金の保険料を払っており、今は会社で厚生年金に加入しています。年金に加入できる年齢や、いつまで保険料を払えばいいのかなど基本的なことを教えてください。


A:国民年金への加入は20歳から60歳に達するまでで、加入期間は最高40年です。厚生年金保険は加入年齢の下限はなく、入社した日が厚生年金の資格取得日となります。加入上限年齢は原則70歳で、70歳の誕生日の前日に資格喪失となります。なお上限年齢を超えても受給資格期間を満たしていないなど、一定の条件を満たす場合には任意加入が可能です。受給に必要な期間は平成29年8月から改正されて10年間に短縮されました。現在は段階的に支給開始年齢が引き上げられているところで、昭和36年4月2日以降生まれの男性、昭和41年4月2日以降生まれの女性は原則として65歳からの支給となります。支給開始時期は希望に応じて繰り上げ・繰り下げが可能です。今後、加入上限年齢や支給開始年齢の引き上げの動きも予想されますので逐次、情報を入手しましょう。

【「分断勤務」について教えてください】《令和元年6月掲載》

Q:通信関連の会社で人事を担当しています。技術部門では深夜に突発的な作業や海外の取引先とのやり取りが発生し、勤務時間の管理に苦労してきました。さらに最近、社員に出産や介護の話も出てきて柔軟な働き方を提供したいと考えています。「分断勤務」という方法があると聞きました。概要を教えてください。

A:分断勤務は分割勤務とも呼ばれ、1日の所定労働時間を「異なる労働形態を組み合わせて働くこと」です。これは労働基準法上も問題がないとされています。今は会社に出勤して休憩を挟みながら所定時間勤務する形態が一般的ですが、これに自宅や社外での勤務を認めることで「職場と自宅、社外で所定時間勤務する」ことも可能になります。例えば、朝6時から8時に自宅で資料作成、子どもを保育所に送って10時から15時まで会社で執務、子どもを迎えに行き、食事を済ませて21時から22時までメール対応といった柔軟な働き方が実現できます。介護や育児などに取り組む社員にとって、仕事の合間に通院や役所での手続きなどもしやすくなり、満員電車での通勤を避けることも可能です。人手不足の中、働きやすい環境を整えることは今後さらに重要となるでしょう。

【社員紹介制度について教えてください】《令和元年5月掲載》

Q:IT業界の人事部で採用を担当しています。昨今、世の中では人材不足との声が高まる中、当社も採用で苦戦しています。先日、社長から「社員からの人材紹介を制度化して紹介者には報酬を出したらどうか」と提案がありました。制度化にあたって社内で検討すべき点や法律面での注意点を教えてください。

A:社員からの人材紹介を制度化して紹介者に報酬を出すという制度は、欧米では一般化しており日本でも徐々に広まってきています。自社の社風や業務内容を知る社員からの紹介なので、自社にあった優秀な人材を採用できる可能性が極めて高いことや、採用コストを抑えられるというメリットもあります。しかし、実際に導入した会社からは「うまくいかない」「成果が出ない」という声が多いのも事実です。これは「どのような人に来てもらいたいかが明確ではない」ことが主な原因と考えられています。この制度を導入するのであれば、社員による人材紹介制度を会社の業務として社内規程で定め、会社の本気度を示す必要があるでしょう。なお、紹介した社員への報酬は、職業安定法上は原則禁止ですが、給与として支払う場合は例外として認められています。

【無断欠勤者にはどう対応すればよいでしょうか?】《平成31年4月掲載》

Q:流通業で人事を担当しています。3週間ほど前に中途で入社した社員が1週間以上無断欠勤しています。仕事の改善点をアドバイスしたら翌日から出社しなくなったそうです。無断欠勤の2日目に人事から電話をしたところ無言で切られ、その後は電話に出ません。このまま懲戒解雇にしてもよいのでしょうか?


A:まずはさまざまな方法で出勤を督促すると同時に、欠勤者本人が無断欠勤に至った原因について配属職場に確認してください。もし本人と連絡が付けば、面談あるいは電話で無断欠勤の理由を尋ね、出勤を督促するとともに採用時に提示した労働条件や配属職場の対応に問題が無かったことも確認してください。本人と連絡が取れない場合には配達証明郵便などを利用して、記録に残る形で出勤の督促を繰り返し一定期間、本人に意思表示をする機会と時間を与えなければなりません。それでも出勤しない場合には、懲戒解雇という処置もやむをえませんが、その場合には客観的かつ合理的な理由があり、社会通念上相当であることが要求されます。会社側の対応がこれに該当している上で、就業規則に定めがあればそれに従い、定めがなければ本人にその旨を伝える必要があります。

【有給休暇取得の義務化について教えてください】《平成31年3月掲載》

Q:製造業で人事・労務を担当しています。現在、当社には正社員、契約社員、パート従業員の計約100名が在籍しています。2019年4月から年5日の有給休暇取得が義務化されるとのことですが、対象となる従業員の条件や事前の準備を知りたいです。また万一、違反した場合には罰則などあるのでしょうか?


A:この4月1日から全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される全ての労働者(管理監督者、有期契約労働者、パートタイマーなどを含む)に対し、このうちの5日については付与された日から1年以内に使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられました。違反した場合は30万円以下の罰金です。ただし、従業員が年5日以上有給休暇を取得している場合や計画年休により年5日以上の有給休暇を与えている場合は指定義務の対象外です。なお、時季指定に際しては、労働者の意見を聴取し、できる限りの労働者の希望に沿った取得時季になるよう意見を尊重する必要があります。国内の人手不足は深刻で、休暇取得による人員不足を新規採用によって補充することは困難でしょう。そのため労働者が多い企業では早めに計画して実施することをおすすめします。

【働き方改革関連法案】《平成31年2月号掲載》

Q:小売業の経営者です。先日、働き方改革関連法案が国会で可決成立したと聞きました。当社はいわゆるホワイト企業で、正社員・パート社員ともに有給休暇の消化率は毎年9割程度です。残業時間も正社員は月10時間未満、パートはほぼゼロです。とはいえ、今回の法改正に伴い当社でも必要な措置があれば対応したいので、まずは法改正の概要を把握したいと思っています。

A:数多くの改正事項が出てきた働き方改革ですが、重要なポイントは(1)長時間労働の改善(2)正規・非正規の不合理な待遇格差の是正の2点です。(1)は2019年4月1日から年次有給休暇を10日以上付与される労働者に対し、年5日取得の義務付け等、また管理監督者を含めた労働時間の客観的かつ適切な方法による把握が義務付けられます。なお中小企業における残業時間の上限規制の適用は2020年4月1日、60時間超の残業代の割増率の引き上げの適用は2023年4月1日からです。(2)は2020年4月1日施行(中小企業は2021年4月1日)となります。事業主は「労働時間の管理を厚生労働省で定める方法」によりこれまで以上に客観的な労働時間の管理や正規・非正規の待遇の見直しが必要となります。

【残業代を含む基本給について教えてください】《平成31年1月号掲載》

Q:社員10名の事務機器販売会社で人事総務を担当しています。当社は社長と私以外は営業職で、比較的給与水準が高いこともあり「残業代は基本給に含む」という運用をしてきました。つまり、これまで労働時間の把握をしてこなかったのです。昨今の社会の流れも踏まえ、今後は労働時間を管理し、残業代は基本給とは別にする方針です。ところで、もし過去の残業代を精算するとしたらどのような点に注意すればいいのでしょうか。

A:「残業代は基本給に含む」というルールが違法であるとは断定できません。計算根拠を示した定額残業代相当額を基本給に含む場合は、実際の労働時間から算定した時間外手当相当額をカバーしていれば違法とまではいえません。また、かなり高額な基本給を支給されていた事案では、時間外手当を含むことを認めた判例もあります。とはいえ、労働時間管理は賃金計算ばかりでなく、労働者の健康管理にも重要な役割を果たしますから、今後を考えれば正しい決定でしょう。なお過年度の残業代の計算は、各年度における社会保険料や税金の計算も必要ですし、当年度の一時金としても同様です。そのため税理士や社労士とよく相談して手続きを進めてください。

【自然災害による休業について教えてください】《平成30年12月掲載》

Q:製造業で人事を担当しています。当社はこれまで幸いなことに自然災害の影響を受けたことがありません。しかし、近年の地震や台風などの被害の大きさを見て、自然災害で業務ができない場合の対応を検討することになりました。工場の破損や計画停電などどうにもならない事情で休業する場合、従業員に対して手当の支払いなど対処の仕方を教えていただきたいです。


A:事業の正常な運営が困難になり休業する場合は「使用者責に帰すべき事由」による休業なので当然、休業手当の支払い義務が生じます。一方、天災事変等の不可抗力による工場の破損、計画停電など避けることが困難な事情の場合は「使用者の責に帰すべき事由」に当たらず、休業手当の支払い義務はありません。実際の給与計算では、休業手当が発生しない場合には休業日分の欠勤控除をすることとなりますが、事後的に有給休暇の取得を認めることも検討してください。天災事変等により休業手当の支払い義務が免除されるのは極めて限定的であり、会社設備が直接的な被害を受けていない場合も当然、休業手当の支払い義務は発生します。いざというときのために就業規則や労働協約を今一度、見直すとよいでしょう。

【業務委託契約について教えてください】《平成30年11月掲載》

Q:食品製造会社を経営しています。これまでは業務用がメインでしたが、一般消費者の方にも人気が出ている商品があり、個人向けのネット通販を始めることにしました。サイト制作やシステムの導入、メンテナンスは全て未経験なので、当面は社外の力を借りる予定です。その際には業務委託契約を結ぶことになると思うのですが、概要や注意点について教えてください。


A:専門的業務を外部発注するとき、多くは業務委託契約を締結します。これは主に民法における「請負」か「委任(準委任)」のいずれか、またはこれらの混在したものです。「請負」は仕事の完成を目的とし主に成果物の引き渡しを要件とするため、システム開発などは貴社の要求する仕様に合致するシステムを納入しなければ仕事は完成しません。また成果物に不具合が見付かった場合はそれを補修する義務があります。「委任(準委任)」は、事務の処理を目的とした契約で仕事の完成義務はありませんが、委任された事務について相応の注意をもって処理することと要求に応じて状況を報告する義務があります。ただし、事務処理のような役務提供であってもメンテナンスなどは結果に責任を負わせる場合もあります。

【職場での服装について教えてください】《平成30年10月掲載》

Q:IT企業の人事担当です。当社はビジネスカジュアルでの就業を認めています。ソフトウェアの開発が主な事業なのでエンジニア職が多く、特に夏場はTシャツにジーンズといったラフな服装が多いです。しかし最近、転職してきた40代の営業管理職に「服装が乱れている」と指摘されました。あまりルールで縛りたくはないのですが、どう事態を収めたらいいでしょうか。


A:ビジネスカジュアルという概念の定義はあいまいです。ですがら、親しみや好感を抱く人がいる一方で、乱れていると感じる人がいるという事態も当然、起こり得ます。カジュアルを認めてもその前提はビジネスシーンでの話なので、混乱を防ぐためには会社がある程度の目安を示すことは必要でしょう。近年、夏場のクールビズにより軽装が認知される社会環境が定着しましたが、ビジネスパーソンである以上、カジュアルが「ジャージにTシャツ」といった普段着とは違うものであることを全員の共通認識としなければなりません。例えば、服装のアイテムやその着こなし方、さらにはTPOによる好事例を調査し貴社独自の節度あるビジネスカジュアルというものを例示してはいかがでしょう。

【契約社員の無期転換について教えてください】《平成30年9月掲載》

Q:40代の会社員です。1年前から妻が契約社員として働き始めました。契約は1年ごとの更新で先日、初めての契約更新をしたようです。今年の春に、契約社員や派遣社員など有期の契約で働く人たちの無期転換が話題となり、うちの妻はどうなるのだろうと。気になりました。妻は条件によっては今後、転職も考えたいと言っており、概要を知って参考にしたいと思います。


A:平成25年の改正労働契約法に「無期労働契約への転換制度(無期転換ルール)」が盛り込まれました。同じ会社で5年を超えて働いた有期契約社員は、無期労働契約への切り替えを申し込めるというものです。適用開始は平成25年4月1日でしたので、最短で平成30年4月1日から無期転換の権利が発生した人がいることになります。無期契約社員とは、その名のとおり雇用契約期間の定めのない契約社員ですから、契約期間以外の労働条件は原則として変更されません。会社は正社員と同様の給与や賞与、退職金制度を適用する義務はありません。また無期転換を申し出ると契約終了のリスクはなくなりますが、有期契約の頃と比べて、ある程度は責任が重くなることや正社員への転換が難しくなることが予想されます。

下村典正税理士事務所は
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