どちらが正しいのか疑問に思う敬語の言い回しがあります。例えば「いただく」と「くださる」。「ご連絡いただきまして、ありがとうございます」は自分側をへりくだった表現(謙譲語)であり「ご連絡くださいまして、ありがとうございます」は相手の行為に対して敬意を払った表現(尊敬語)という違いがあります。しかし、どちらも「立てる」べき対象が相手であることに変わりありません。したがって、どちらを使っても相手に失礼にはなりません。では「後ほど、ご連絡させていただきます」という一文はどうでしょうか。丁寧に言うのであれば「ご連絡」のほうがよいのか、自分自身の行為だから「ご」を付けないで「連絡」のほうがよいのか迷うところです。この場合「連絡」の前に「ご」を付けるか付けないかということよりも「させていただきます」の使い方に着目してみましょう。本来は「~させていただきます」は相手を立て、許しを得て及ぶ行為に使われていた表現です。自分の行為(相手に「連絡する」)を失礼のないよう表現するのであれば「ご連絡いたします」と書き換えると文章としてすっきりします。「ご連絡いたします」のほかには「資料を拝見してから、ご連絡申しあげます」という書き方もあります。「~させていただく」については、2007年2月2日の文化審議会答申の「敬語の指針」で「させていただく」の使い方の問題として「"(お・ご)・・・(さ)せていただく”といった敬語の形式は、基本的には自分側が行うことを、(ア)相手側または第三者の許可を受けて行い、(イ)そのことで恩恵を受ける、という事実や気持ちのある場合に使われる。したがって(ア)と(イ)の条件をどの程度、満たすかによって"発表させていただく”など”・・・(さ)せていただく”を用いた表現には、適切な場合とあまり適切だとは言えない場合とがある」とありますので、「ご連絡させていただきます」は(ア)と(イ)の条件に該当しない表現と思われます。
<適切な言い回し>
■どちらを使っても良い場合
○ ご連絡いただき、ありがとうございます。(謙譲語)
○ ご連絡くださり、ありがとうございます。(尊敬語)
■使い方に注意が必要な場合
× 後ほど、ご連絡させていただきます。
○ 後ほど、ご連絡いたします。
数えるときの単位を今一度、確認してみましょう。新聞表記では、人数を表すのは原則として「人」、動物は「匹」、鳥類は「羽」、大型の獣類は「頭」としています。ウサギは「2羽」のように「羽」で数える説もありますが「匹」でも間違いではありません。動物をどう数えてよいか分からない場合や、種類の違う動物をひとまとめに数えるような場合も「匹」を使います。物を数える場合は形状により数え方が異なります。最も多く使われるのが「個」。その他に薬や真珠など極めて小型の物は「粒」。ひもやネクタイのように形の長いものは「本」。紙やじゅうたん、テニスコートなど平面的なものは「枚」「面」。建物は「棟」「戸」ですが、住居の単位としては「戸」「軒」。機械、器具、車両、固定した施設を数える場合は「台」「基」。車両は「両」で数えることもあります。船舶は「隻」「艇」で航空機は「機」。種類が違う物を一括して数える場合は「点」や「件」を使います。どう数えてよいか迷ったり分からなかったりする場合は、原則として「個」で数えます。量によって数え方が変わるのが紙です。基本は「枚」ですが、和紙や半紙は2000枚を「一締め」、印刷用紙の全紙1000枚を「一連」と表します。状態によって変わるのが草花。切り花は「本」「輪」、苗や鉢物は「株」「鉢」で数えます。その他には墓や記念碑は「基」、滑り台は「台」「基」、のれんが「垂れ」(「枚」という数え方もある)、箸は「膳」と数えます。机の数え方は「脚」「台」「卓」と3種類あります。椅子は「脚」や「個」。では、たんすの数え方は?「さお」または「本」です。意外と幅広く使われているのが「丁」です。銃器の他に豆腐、すきやくわなど主に手に持って使う器具・道具を数える場合に用います。音の出るものでは三味線やギターも「丁」で数えます。このように単位の数え方をしっかり理解していると、ビジネスメールを書く際にもきっと役に立つでしょう。
<新聞表記による数え方>
■人数:人 → 例:参加者は8人
■動物:匹 → 例:2匹の犬(ウサギは「羽」で数える場合も)
■鳥類:羽 → 例:3羽のカラス
■大型の獣類:頭 → 例:1頭の熊
※動物をひとまとめに数えるときは「匹」
→ 例:牛、豚。鶏など家畜10数匹
メールを書くときに文字をパソコンに入力すると、それらしい漢字や言葉に自動的に変換されるため、気に留めることなくそのまま使ってしまうことも多いでしょう。例えば「遅れをとる」と「後れをとる」。あなたはどちらを使っていますか?「遅れ」は時間の早い・遅いを表すときに使い、「後れ」は物事の後先を表すときに使います。正しくは「後れをとる」で、他者に先んじられることを意味します。では「極め付け」と「極め付き」はどうでしょうか。本来は「極め付き」です。「極め」とは、書画や刀剣にその価値を鑑定・証明する「極め書き」「極め札(きわめふだ)」のことを指します。極めを付けることから転じ「定評があるもの、高い評価を受けているもの」を「極め付き」と言います。しかし「極め」を「極み、極限」と捉えて「その上、さらに」「揚げ句の果てに」という意味合いで使っているケースもあります。例えば「極め付きは豪華なお土産」「散々だったうえ、極め付きに帰りは渋滞」といった一文です。いずれにしても「極め付き」とするのが正しく「極め付け」は誤りです。では「剣もほろろ」と「けんもほろろ」の正しい表記はどちらでしょうか。「けん」は「剣」ではなく、本来の意味は「雉(きじ)」です。
「ほろろ」はその鳴き声を指します。「けん」を「慳貪(けんどん)」にかけ、頼みや相談などを冷淡に断る様を意味します。
「いただく」という言葉も注意が必要です。「もらう」の意で使う場合は「頂く」と漢字表記にしますが、補助動詞として使う場合は「いただく」とひらがなで表記します。パソコンで入力する際に「頂く」と漢字表記されたまま気付かないことも多いようなので、使い分けの基準を知っておくと正しく活用できます。「いただく」もあいさつ文やかしこまった文章には頻繁に出てくるので注意しましょう。
ちなみに「白雪を頂いた山々」のように「載せる」という意味で使う場合の表記も「頂く」です。「戴く」と書かれた紙面もときどき目にしますが、新聞表記では「頂く」で統一されています。
<要注意な言葉>
× 対応に遅れをとる
○ 対応に後れをとる
× 極め付けの良書
○ 極め付きの良書
× 剣もほろろな対応
○ けんもほろろな対応
敬語には「行く」の尊敬語の「いらっしゃる」や「訪ねる」の謙譲語の「うかがう」のように特定の語形で表現するものがあります。そこで今回は敬語の言い換えについて取り上げてみましょう。まず基本的な表現である「言う」の尊敬語は「おっしゃる」、謙譲語は「申す」ですね。尊敬語は「先方がおっしゃるには・・・」「社長がおっしゃることはごもっともです」のように使います。謙譲語は「部長がごあいさつにうかがいたいと申しております」「私が申し上げるまでもありませんが・・・」のように使います。次に「聞く」の尊敬語は「お聞きになる」「お聞きくださる」など普通形ですが、謙譲語は「うかがう」となります。尊敬語の場合は「○○の件はお聞きになりましたか」「最後までお聞きくださり、ありがとうございます」のように使います。謙譲語は「部長のご意見をうかがいたいのですが」「その件については先ほどうかがいました」のように使います。ちなみに「聞く」の謙譲語には「拝聴する」もあります。また「知っている」の尊敬語は「ご存じ」ですね。尊敬語は「よくご存じとは思いますが・・・」「○○についてご存じでしたら教えていただけますか」のような使い方をします。謙譲語は「存じております」「存じています」ですが、ほかに「存じ上げる」という言い方もあります。対象が人の場合は「存じ上げる」を使い、物や場所など対象が人以外の場合は「存じている」と使い分けます。人が対象となる場合は「お名前はよく存じ上げております」「ますますご活躍のことと存じ上げます」のように「上げる」を付けて使います。その反対の「知らない」に相当するのは「存じません」「存じておりません」です。ちなみに「~と思う」の謙譲語も「~と存じます」です。「メールで失礼とは存じますが、まずはお礼まで」「ご理解いただければと存じます」のように使います。このように少々かしこまった表現のメールになりますが、きちんと使い分けることによってメールの相手から高い評価を受けることもあります。
<「存じる」の使い分け>
■対象が人の場合「存じ上げる」
× 社長のお名前はよく存じております。
○ 社長のお名前はよく存じ上げております。
■対象が人以外の場合は「存じている」
× 商品の送付先は存じ上げております。
○ 商品の送付先は存じております。
「お墨付き」とは、権威や地位のある人からもらった保証のこと。かつて、幕府や大名が家来に与えた証明書に墨で花押(かおう)という図案のような署名を押した文書に由来します。対して「折り紙付き」とは、絶対に間違いないと信頼するに足る保証付きという意味です。書画や骨董(こっとう)に付ける鑑定書として、奉書(ほうしょ)などを折って用いたことから転じた言葉です。権威や力を持つ人が「これで良い」と認めるときに用いるのが「お墨付き」。その人物やその人の持つ能力が十分に信用できる場合に用いるのが「折り紙付き」です。誰が認めたかに重点を置くのが「お墨付き」で、その人や物が優れていることを指すのが「折り紙付き」という違いがあります。それでは「準じる」と「準ずる」はどう違うのでしょうか?社内用の文書などに「当社の就業規則に準じるものとする」という一文がある場合「準じる」と「準ずる」のどちらが適切なのでしょうか。「準ずるはただの言い間違い」とする捉え方もあれば「本来は準ずるだったのが、準じるに移行してきている」という捉え方もあります。調べてみると、辞書によって「準じると同じ意が準ずる」とするものと「準ずると同じ意が準じる」とするものがあるようです。文法的には「準じる」は自動詞の上一段活用で「準ずる」は自動詞のサ行変格活用という活用の違いはありますが、意味は同じで、あるものを基準にしてそれにならうことを指します。「準じる」「準ずる」どちらを使っても間違いではなさそうです。共同通信社「記者ハンドブック」では「準じる」で統一されていますが「朝日新聞の用語の手引き」では「準ずる」で統一されています。新聞表記でも見解が分かれるため、どちらが正しいということではなく、社内で使う場合は「準じる」または「準ずる」のどちらかに表記を統一していればよく、どちらでも差し支えありません。
<「お墨付き」と「折り紙付き」>
【お墨付き】
権力や力を持つ人が「これで良い」と認める場合に用いる
例文:佐藤さんは、ゴルフのコーチからお墨付きをもらった腕前です。
【折り紙付き】
その人物やその人の持つ能力が十分に信用できる場合に用いる
例文:佐藤さんのゴルフの腕前は、折り紙付きですから。
次に挙げた3つの慣用句はどちらの意味でしょう。「話のさわりだけ聞かせる」の「さわり」とは(1)話などの要点のこと(2)話などの最初の部分のこと。「今回の映画はあまりぞっとしないものだった」の「ぞっとしない」は(1)面白くないこと(2)恐ろしくないこと。「知恵熱が出た」の「知恵熱」とは(1)乳幼児期に突然起こることのある発熱のこと(2)深く考えたり頭を使ったりした後の発熱のこと。本来の意味はいずれも(1)です。「ぞっと」は、寒さや恐怖や、強い感動を受けて体が震え上がる様を意味します。そのため「ぞっとしない」は「ぞっとする」の反対語というイメージから「恐ろしくない」という意味で捉えてしまいがちですが、本来の意味は面白くないことです。では、次の3つの慣用句ではどうでしょう。「はっきりと言わないあいまいな言い方」は(1)口を濁す(2)言葉を濁す。「卑劣なやり方で失敗させられること」は(1)足下をすくわれる(2)足をすくわれる。「存続するか滅亡するかの局面」は(1)存亡の危機(2)存亡の機。本来の言い方はいずれも(2)です。「すくう」は、下から持ち上げるようにして横にはらう動きです。すくうのは「足」であり「足下(あしもと)」ではないのですが「足下をすくわれる」や「足元をすくわれる」という間違いが多く見られます。「存亡の機」の「機」は、物事をするのに良い機会・時機という意味なので、存続するか滅亡するかという重大なタイミングは「存亡の機」です。「存続の危機」と混同していませんか?「国語に関する世論調査」を行う文化庁では「言葉は時代とともに変わる。本来と異なる使い方が一般的なケースもあり、それらを全て誤用と断じることはできない」としています。ただ、本来の言葉の意味を知っておくことは大切です。メールの文章とはいえ、何となく聞いたまま、見たままの言葉を使うより、元の意味が何で、どう変わっているのかを時に立ち止まって意識してみましょう。
<慣用句の意味を要チェック!>
■話のさわり → 話などの要点のこと
■あまりぞっとしない映画 → 面白くない
■はっきりと言わない曖昧な言い方 → 言葉を濁す
■卑劣なやり方で失敗させられること → 足をすくわれる
■存続か滅亡かの重大な局面 → 存亡の機
今回は気になる敬語の言い回しについて取り上げてみました。「当日は50名以上の方が会場にいらっしゃりました」。ここで気になるのが文末の「いらっしゃりました」です。「来る」の尊敬語は「いらっしゃる」ですが、それを過去形にすると「いらっしゃりました」ではなく「いらっしゃいました」です。上記の文例は「当日は50名以上の方が会場にいらっしゃいました」とするのが適切です。「来る」の尊敬語「いらっしゃる」にさらに尊敬の「られる」を付けて「いらっしゃられる」とするのは二重敬語となります。「言う」の尊敬語「おっしゃる」を「おっしゃられる」とするのも二重敬語です。「おっしゃる」の過去形は「おっしゃった」で「おっしゃられました」とするのも間違いです。響きが丁寧だからと、すでに敬語になっている言葉に「られる」を使わないように気を付けましょう。では、次の文例はどうでしょう。「ご来場いただいた皆さまに展示をご覧になっていただきました」。「ご覧になっていただく」は「見る」の尊敬語「ご覧になる」と謙譲語「いただく」がミックスされた二重敬語ではなく、2語以上をそれぞれ敬語にして接続助詞「て」でつなげた「敬語連結」です。来場者に「展示を見てもらった」ことを伝えたい場合は「見る」の尊敬語「ご覧になる」+接続助詞「て」+「もらう」の謙譲語「いただく」の連結で「ご覧になっていただく」となり、その過去形が「ご覧になっていただきました」です。「ご来場いただいた皆さま」の後に「ご覧になっていただきました」と「いただく」が続くため「ご来場の皆さまに展示をご覧になっていただきました」と簡潔にしましょう。この一文の主語は「主催者である私たち」です。展示を見てもらった「私たち」が立てる相手は「ご来場の皆さま」つまり、お客さまです。展示を見たのも「ご来場の皆さま」です。ここでは尊敬語でも謙譲語でも立てる対象が「ご来場の皆さま」で一致しているため「ご覧になっていただく」は「二重敬語」ではなく「敬語連結」となります。
<敬語連結「ご覧になっていただく」>
尊敬語「ご覧になる」+接続助詞「て」+謙譲語「いただく」
「ご来場いただいた皆さまに展示をご覧になっていただきました」
↓
「ご来場の皆さまに展示をご覧になっていただきました」
職場の内線電話で他の部署からの問い合わせに「佐藤部長はお電話中です」と対応するのは問題ありません。では、客先からの場合はどうでしょうか。「内→内」の問い合わせには、上司を高めて「お電話中です」としますが「外→内」の場合は「電話中です」と状況を相手に伝えるだけでよく、敬語を使う必要はありません。社外に対しては、上司も内側の人間として扱うため敬称も付けません。「佐藤はあいにく電話中です」あるいは「佐藤はただ今、他の電話に出ております」とします。社外の相手に「連絡事項を上司に伝えておく」と伝える場合「御社の意向は佐藤部長にお伝えします」とするのもNG です。謙譲語「お伝えする」の敬意が上司の佐藤部長に向いていて、社外の相手よりも社内の上司を高めていることになります。この場合は「申し伝える」を用いて「御社の意向は佐藤に申し伝えます」とするのが適切です。このようにメールでも、社外の相手に対し社内の上司への敬語をそのまま使うケースが見られます。しかし、社外に対しては社内の上司も「身内」であり「○○部長」といった敬称は使わず呼び捨てにし、敬語を使う対象も上司ではなく客先になります。「内→内」「内→外」の敬語の使い分けを混同しないように注意しましょう。「さっそく企画書を読まさせていただきました」の「読まさせていただく」も「さ」は不要です。謙譲語「~させていただく」が多用されていることからくる活用の間違いでしょう。この場合「読ませていただきました」または「拝読しました」とします。「社内で検討させていただいてから、ご連絡させていただいていいですか」と謙譲語「~させていただく」を多用している文もすっきりしません。敬語は一文にひとつとし「社内で検討後、ご連絡してよろしいですか」と問いかける形式にするか「社内で検討後、ご連絡いたします」と言い切ると文が短く簡潔になります。「~させていただく」を使う前に、それ以外に言い換えることはできないかを確認してみましょう。
<敬語の使い方に要注意!>
■客先に対する注意
× 御社の意向は弊社の佐藤部長にお伝えします。
○ 御社の意向は佐藤に申し伝えます。
■「~させていただく」の注意
× 企画書を読まさせていただきました。
○ 企画書を読ませていただきました。
○ 企画書を拝読しました。
メールで用いる敬称には「様」「殿」「先生」「氏」などがありますが、ビジネスメールでは「様」が一般的です。公的な手紙も「様」は失礼にあたりません。「先生」は主に教職の人に使う敬称です。「先生」自体敬称ですので、くれぐれも「先生様」と重ねて使わないように気を付けましょう。○○局長、△△教授など、官名や職名を氏名の下につけて敬称として用います。ところで「御中」の使い分けはできていますか?担当者名が分からない場合やはっきりしない場合に官庁、会社、団体宛てに送る際に使う敬称が「御中」です。「株式会社○○○御中」「株式会社○○○総務部 御中」といった具合に用います。一方、担当者の個人名が分かっている場合は「株式会社○○○総務部 山本太郎様」とします。宛先の個人名が分かっているのに「株式会社○○○御中 山本太郎様」のように「御中」と「様」を併用しないように注意しましょう。丁寧そうに見えるからと社名に「御中」さらに名前に「様」とする敬称を二重に使うことになります。担当者の個人名が分からない場合「株式会社○○○総務部 ご担当者様」という書き方もあります。
しかし「ご担当者各位様」という書き方は誤りです。「各位」「様」も敬称なので使うならどちらかひとつです。では、はがきや手紙の宛名で使う場合の注意点も紹介しましょう。応募などの宛先が「○○係」の場合も団体を指すので「御中」を忘れずに添えて「採用係御中」のように書きます。「採用係」のみで送るのは「御中知らず」といってNGです。封書やはがきの宛名に「行」「宛」とすでに書いてある場合は、それを二重線で消して「御中」や「様」と書いて送付します。その際の「御中」「様」の位置は、二重線を引いた「行」「宛」の下に続けるのではなく、縦書きの場合は消した字の左、横書きの場合は消した字の下に書きます。「総務部宛にメール(資料)を送ってください」という場合、「総務部 宛」とそのまま書いてメールや郵送しないよう気を付けましょう。
<敬称の二重使用に要注意!>
■「御中」と「様」の使い分け
× 株式会社ABC御中 佐藤一郎様
○ 株式会社ABC御中
○ 株式会社ABC 佐藤一郎様
○ 株式会社ABC ご担当者様
■敬称の重複に要注意
× 株式会社ABC 採用係
○ 株式会社ABC 採用係御中
言い方や書き方によって相手の受け取り方がガラリと変わります。思ったことをそのまま伝える直球方式は、場合によっては相手が不愉快に感じることもあるため、角を立てず思いを伝える言い回しの変化球も知っておくと、メールのやり取りを円滑にする一助になります。特に、否定的な一文を肯定的に書き換える術を知っておくと、相手にも好意的に受けとめてもらえます。例えば、人から褒められた場合は「いえいえ、そんなことありません」「私なんて大したことありません」と謙遜の気持ちから自ら相手の言葉を打ち消して返すことが多いものですが「ありがとうございます。〇〇さんに褒めていただき光栄です」「ありがとうございます。お褒めの言葉を頂戴し光栄です」と褒められたことへの感謝の気持ちを伝えましょう。ポイントは、自分のことではなく、相手に褒められたことがうれしくありがたいという気持ちに重きを置いて伝えることです。また相手から手土産をもらったとき、遠慮する気持ちからこんなふうに返していませんか。「気を使っていただいて、すみません」「こんなに高価なものを頂いて申し訳ないです」。「すみません」「申し訳ない」という言葉を使ってしまいがちですが「なんだか申し訳ない」という気持ちを一転させて次のように書き換えてみてはどうでしょう。「お心づくしの品、ありがたく頂戴します」「お心づくしの品」は「お心のこもった品」と書き換えてもよいでしょう。手土産を渡す側は、相手に喜んでほしいという気持ちがあるはずです。ならば「すみません」と恐縮するより、素直に好意を受けとめて「ありがとうございます」と感謝の言葉を返すほうが感じが良いです。その場でお礼ができず、あとでお礼のメールやはがきを送る場合は「結構なお品を頂戴し、ありがとうございます」と伝えます。「結構なお品を頂戴し」は「お心遣いいただき」「お心づくしの品を頂戴し」としてもよいでしょう。「いつもお心にかけていただき、お礼申し上げます」という言い方もあります。
<相手に好意的に受けとめてもらう表現>
■褒められたとき
●△△先生に褒めていただき、光栄です。
●お褒めの言葉で自信がつきました。
■頂きものをしたとき
●お心づくしの品、ありがたく頂戴します。
●お心のこもった品を頂戴し、ありがとうございます。
●お心遣いいただき、お礼申しあげます。
「これ、どうっすかね」「もう、いいっすか」「そうっす」のように「です」を「っす」に言い換える会話が増えました。合の手のようい入れる「~とか」「それって」「これって」という言い回しもすっかり定着してしまった感があります。話し言葉に限らず、メールでもこのようなくだけた言い回しを使っていませんか?「どうっすか」「なんすか」と口に出して言わないまでも、無作法な言い回しをシャキッと言い換えて、締まりのある文章に変身させましょう。例えば、相手に確認したり尋ねたりする場合「どうですか」を「いかがですか、いかがでしょうか」、「なんですか」を「どのようなご用件でしょうか」、「いいですか」を「よろしいですか、よろしいでしょうか」といった具合です。自分の動作に伴う、よく使う言い回しも挙げてみましょう。「行きます」を「伺います、まいります」、「帰ります」を「失礼します」、「知ってます」を「存じております」、「~と思います」を「~と存じます」などです。着物も洋服も「着崩す」には、基本の着こなしを身に付けておくことがポイントです。土台がないまま崩しても、だらしなく見えてしまうだけです。「基礎があるから応用もある」というのはどんな世界にも通じることでしょう。年齢や上下関係にこだわらないフランクでラフな会話ができるようになるためには、最初にきちんとした物言いができ、順を追ってお互いの信頼関係を築いていく必要があります。初対面で「ち~っす」や「あざ~っす」といったタメグチモードは相手にも失礼です。丁寧な言葉遣いは形式的なものではなく、相手への思いやりや敬意の表れ。ひいては自分への信頼を導くものです。敬語や改まったものの言い方、書き方は知っておいて損はありません。年齢を重ねるほど「その言葉遣い、おかしいですよ」と面と向かって注意してくれる人は少なくなっていきます。日頃から、言葉遣いに注意を払うことで「気付いていないのは本人だけ」という事態を防ぐことができます。
<丁寧な言い換え>
■どうですか → いかがですか
■なんですか → どのようなご用件でしょうか
■いいですか → よろしいですか
■行きます → 伺います・まいります
■帰ります → 失礼します
■知ってます → 存じております
■会います → お目にかかります
ビジネスメールに大和言葉を取り入れると、気の利いた言い回しとして活用できます。例えば「遅ればせながら」。遅れてはせ参じることで、肝心なときに人より遅れて駆けつけることを意味します。最も良いタイミングは逃してしまったけれど、相手に気持ちを伝えたいときに用いるとよい言い回しです。年賀状を出しそびれた相手に今年最初のメールを送るとき「遅ればせながら、新年のごあいさつを申しあげます。本年もよろしくお願いいたします」といった具合に使います。お祝いを相手に直接言うタイミングを逃してしまったときも、メールでやりとりする際に「この度はご結婚おめでとうございます。遅ればせながら、お祝い申しあげます」と、ひと言添えておくこともできます。
お礼を伝えそびれた場合も、相手への感謝への意をメールに書き、結びに「遅ればせながらお礼まで」として送れば、たとえ短い文でも何もせずやり過ごすより、相手に気持ちを伝えることができます。もうひとつ覚えておきたいのが「賜る(たまわ)る」です。人から何かをもらう場合、それが目上の相手からのときにへりくだって相手を立てる謙譲語として用います。贈答品のような形のあるものをもらったときは「この度は結構なお品を賜り、誠にありがとうございます」のように使うほか、目に見えないものをもらうときも「このような機会を賜り、心より感謝申し上げます」「来賓の佐藤さまからお言葉を賜りたいと存じます」といった具合に使います。この他にひいきにしてもらっている客先に対しては「ご愛顧を賜り」、人との出会いに対しては「ご縁を賜り」のように使います。このように自分には過ぎた言葉や心遣いを相手からしてもらったときに、相手に対する敬意と感謝を込めて使うことの多い言葉です。式典や改まった席でもよく用いますね。ちなみに、上司の指示や客先からの依頼を引き受けるときに使う「承(うけたま)る」は、目上の相手からの命令を「受け」て「いただく」という意の「受け賜る」から生じた言葉です。
<ビジネスメールに使える大和言葉>
■「遅ればせながら」
・遅ればせながら、新年のごあいさつを申しあげます。
■「賜る」
・お品を賜り、ありがとうございます。
・機会を賜り、感謝申しあげます。
・ご縁を賜り、お礼申しあげます。
気の進まない飲み会などに誘われ、断りたいとき「すみません、今日はちょっと・・・」という断り方では理由がはっきり分からないので「なんで?」と押し切られる可能性があります。「すみません、その日は無理です」という断り方も「無理」という拒絶が、誘った相手に良い印象を持たれません。このようなときは「せっかくお誘いいただいたのに、すでに予定があり残念です」あるいは「今日はあいにく先約があり、参加できず残念です」という返事の仕方があります。ポイントは、参加したいけれど事情があり、参加できない意を伝えることです。「せっかく」「あいにく」という言葉を添え「残念です」で締めくくると相手に受け入れられやすくなります。「参加したくない」が本音でも、それをストレートに相手にぶつけてしまうと「せっかく誘ったのに・・・」と反感を買うことになります。「参加しない」という拒否の姿勢を前面に出すのではなく「(本当は参加したいけれど)参加できない」という形で返答すれば、角が立ちません。言い方ひとつ書き方ひとつで印象が変わるため、断るときも自分の気持ちのままに直球勝負するより、相手の受けとめ方を考慮した変化球で対応するとよいでしょう。目上の相手から誘われる飲み会などで、忙しくてそれどころじゃないというのが本音の場合も、忙しいことを理由にするのはできれば避けたいものです。
このようなときは「あいにく今、立て込んでおりますので、落ち着いたらこちらからお声がけいたします」という返答の仕方があります。まず「あいにく」を使って、相手の誘いに今は応えることができない状況を伝え「時間の余裕ができたら改めてこちらから声をかけます」と前向きな姿勢で返答すれば相手も気を悪くしません。その場で拒否・拒絶するとそこで関係も途切れますが、一旦は相手の意向を受けとめ、次の機会にこちらからアクションを起こす旨を伝えれば相手も安心できます。このようにバッサリ切り捨てて終わりにせず、先に可能性を残す断り方が理想的でしょう。
<角の立たない断り方>
× 今日はちょっと・・・
〇 せっかくお誘いいただいたのに、すでに予定があり残念です。
× 無理です。
〇 今日はあいにく先約があり、参加できず申し訳ないです。
次回はぜひ参加したいので、お声がけください。
クレジットカード会社からのお知らせで、次のようなメールを受け取りました。「お電子マネー〇〇〇へのクレジットカードチャージにおけるポイント付与に関するお知らせ」。「お金」「お札」「おつり」など、金銭を示す言葉に美化語の「お」が付くケースはありますが、金銭に代わるものとして普及している「電子マネー」にまで「お」は必要でしょうか。相手に関する美化語に尊敬の意を込めて付ける「お」「ご」があります。例えば、相手の体や持ち物には「お顔」「お名前」「お住まい」など。相手の動作・行動には「お買い上げ」「お帰り」「ご乗車」「ご予約」など。相手に関わることとして「お徳用」「ご利息」「ご預金」などが挙げられます。「お電子マネー」という表記も「お客さまの電子マネー」という意で、相手への敬意を表すために使われているのかもしれませんが、言葉としての違和感はぬぐえません。「お」を付けずに「電子マネー〇〇〇へのクレジットカードチャージにおけるポイント付与に関するお知らせ」としても、メールの受け取り手には失礼にならないでしょう。「おビール」「おソース」「おトイレ」など、外来語に「お」を付けた言葉も見受けられますが、外来語にも「お」は付けないのが原則です。お客さまのクレジットカードも「おクレジットカード」「おカード」とは言いませんね。ちなみに「お」「ご」の使い分けの基準は、訓読みの和語の前に付くのが「お」、音読みの漢語の前に付くのが「ご」とされます。しかし、必ずしも和語には「お」、漢語には「ご」というルールどおりではない言葉もあります。和語でも「ご」を付ける例としては「ご入用」「ごゆっくり」「ごもっとも」など。漢語でも「お」を付ける例としては「お礼状」「お加減」「お時間」などがあります。「ご利息」は「お利息」という言い方もあり、どちらも付く場合があります。一般的に「お」が付くとカジュアルな印象、「ご」が付くと改まった印象を与えますが、使い分けの境界線があいまいになっている言葉はたくさんあります。
<「お」と「ご」の使い方>
●「お」が付く金銭を示す言葉
お金・おつり・お札・お小遣い
●「お」が不要な金銭を示す言葉
お電子マネー・おクレジットカード
●「ご」が付く金銭を示す言葉
ご送金・ご入金・ご預金
●「お」「ご」両方付く金銭を示す言葉
ご利息・お利息
「1人」と「一人」と「独り」。いずれも「ひとり」と読みますが、それぞれに使い方が異なります。人数を示す場合は「1人」。「一人」は「一人息子」「一人天下」のように成句、慣用句、決まり文句として用います。「独り」は単独・独立の意味合いで「独り言」「独り占め」のように使います。「一人」か「独り」か表記を迷う場合は「一人」とします。「ひとりあるき」は2種類の表記があり「一人歩き」は一人で歩くこと。「独り歩き」は独立や物事が勝手に進むことを指します。「独り歩き」に似た言葉に「独り立ち」があります。誰からの援助も受けず自分で生活していくことを意味します。では「建物のまわりをまわる」を漢字で書くとどうなるでしょうか。「まわり」には「回り」と「周り」の2つの漢字があります。「回り」は「身の回りの世話」「水回り」のように巡回や回転、物の働き具合を指します。「周り」は、とりまいていることを指し「池の周り」「周りを気にする」のように使います。したがって「建物のまわりをまわる」は「建物の周りを回る」と書きます。「回り」は名詞として使うほかに「回る」という動詞もありますが、「周り」は名詞のみでしか用いないという違いがあります。「グラウンドをひと回りする」と「グラウンドを1周する」は同じ意味ですが、「ひとまわり」は「ひと回り」と書きます。最後に「代金」と「料金」。どちらも支払うお金のことですが、メールなどで文章を書くときにどちらを使うべきか迷ったことはありませんか?「代金」は、買った品物の代わりに支払うお金のこと。対して「料金」は何かを利用・使用したときに支払うお金のこと。品物の売買に用いるのが「代金」で、利用料や使用料を指すのが「料金」と使い分ければ悩むこともありませんね。「代金」に類似する言葉に「代価」があります。これも品物の値段を指しますが、一般的には「代価」より「代金」を使うことが多いです。ひとつの文面で「代金」と「料金」、「代金」と「代価」を混同して使わないように注意しましょう。
<紛らわしい「同音異字」の使い方>
●「周り」と「回り」の違い
周り → 周辺のこと
回り → 巡回すること
●「代金」と「料金」の違い
代金 → 買った品物の代わりに支払うお金
「代金の先払い」「代金引換」
料金 → 利用・使用したときに支払うお金
「電気料金」「料金別納」
「まずは無料の省エネシミュレーションをお試ししませんか?」。相手に「試しませんか」と呼びかける場合、「お試ししませんか」という敬語の使い方はNGです。「試す」のは相手なので、相手を主語とする尊敬語「お~になる」を用い「お試しになる」の問いかけの形である「お試しになりませんか」を使って「まずは無料の省エネシミュレーションをお試しになりませんか?」とするのが適切です。「お試しになりませんか?」のほかに「お試しになってください」「お試しください」としてもよいでしょう。「ここで待っていてください」と相手に伝える場合も「ここでお待ちしてください」というのは誤りで「ここでお待ちになってください」「ここでお待ちください」とするのが適切です。自分が「待つ」のであれば謙譲語「お~する」を使って「ここでお待ちしています」としますが、相手が「待つ」場合は尊敬語「お~になる」を使って「ここでお待ちになってください」とします。「装置の仕様や精度など、弊社に色々お聞きしたいことがあると思います」という一文の「お聞きしたい」は、相手に自分が「聞きたい」場合に使うのであれば問題ありませんが、「自社へ聞いてください」と相手に呼びかける場合は「聞く」の主語は相手となるので尊敬語「お聞きになる」を使います。文末の「あると思います」も「あるかと思います」です。「装置の仕様や精度など、お聞きになりたいことがあるかと思います」とし、文の後に「下記へお気軽にお問い合わせください」のような一文を入れると収まりがよいでしょう。自分が相手に「聞く」場合は主語が自分で、謙譲語「お~する」を用いて「お聞きする」を「お聞きしたい」と変化させます。「装置の仕様や精度など、幾つかお聞きしたいことがございます」や「装置の仕様や精度など、詳細をお聞きしたいのですが」とします。誰から誰に「聞く」のかを整理し、相手に「聞く」場合は尊敬語「お聞きになる」、自分が「聞く」場合は謙譲語「お聞きする」を使い分ける必要があります。
<尊敬語と謙譲語の使い方>
●尊敬語:主語は相手「お~になる」
待つ → お待ちになってください
聞く → お聞きになる
お聞きになってください
●謙譲語:主語は自分「お~する」
待つ → お待ちしています
聞く → お聞きする
お聞きしたい
相手からの依頼や誘いをやむなく断らなければならないときは返答に気を使います。どっちつかずの返答はやり取りを長引かせたり、誤解を招いたりすることにもなりかねませんが、断り方に配慮がないと相手は拒絶されたと捉え、気まずい雰囲気になることもあります。角の立たない断り方とは、無理をしたり、ごまかしたりすることではなく「できない」ときちんと意思表示した上で相手との関わりが続くように、配慮し、言葉や態度で伝えていくことです。例えば、集まりや会合などの誘いを受けたものの、都合が悪く参加できないという場合に覚えておくとよい言い回しが「せっかくですが」です。「せっかくお声かけいただいたのに」「せっかくのお話ですが」といった言い方もできます。断るときに「せっかく」を用いるのは、わざわざ相手が自分を気遣ってくれたことへの感謝の気持ちを伝えるためです。理由があってやむを得ず断るが、機会があればまた声をかけてもらえるよう「ぜひともまたお声かけください」のようなフォローのひと言を添えるとさらによいでしょう。「せっかくのお話ですが、今回は見送らせてください」のように「今回は」という言葉を添えると「今回は無理でも次回は可能性がある」ことを伝えることができます。無理な依頼や強引な勧誘には、表現はやんわりと、しかし断る意志はきっぱり伝える方が得策です。気持ちの上では「ダメなものはダメ」「無理」と思っていても、メールのやり取りでは感情に訴える前に表現をひと工夫しましょう。この場合は「こちらでもどうにもならない苦しい状況を察してください」という意味合いの「おくみ取りください」を使います。「よんどころない事情につき、何とぞおくみ取りください」のように、対応できない理由をはっきり言わなくても「これ以上、言わせないでください」というアピールになります。対応や協力はできないけれど、相手の事情をくみ取った上でかける言葉としては「お察しします」があります。
<上手な断り方の例>
●せっかくですが、この日はすでに予定があり、参加がかないません。
●あいにく弊社では対応できません。どうか事情をおくみ取りください。
●ご苦労は重々お察ししております。
●事情はお察ししますが、当方としても対応いたしかねます。
受け取ったメールにカチンときたことはありませんか?メールは感情やニュアンスが会話ほどには伝わりません。相手に気を使って書いたつもりでも高圧的になっていたり、命令調になっていたりすることがあります。そこで今回は「依頼する」場合の上手な言い回しを紹介いたします。依頼の際にまず覚えておくとよいのが「~してください」から「~していただけますか」への変換です。例えば、社外の相手に修正を依頼する場合は「下記の点を修正してください」は「下記の点を修正していただけますか」。社外や目上の相手に依頼のメールを送る場合は「~してください」だと命令調になりますが「~していただけますか」と問い掛ける言い回しにするとメールの印象が和らぎます。さらに「恐れ入りますが」「お手数ですが」といった緩衝材になる言葉を添えると、より丁寧な一文になります。「恐れ入りますが、下記の点を修正していただけますか」「お手数ですが、販促用チラシを20部ご送付いただけますか」といった具合に、書き言葉では言い回しを変えたり、言葉を添えたりすることで気持ちや気遣いを伝えることができます。頼み事をする際「~してください」と相手に要求するだけでなく、ある程度の素案を考えておき、相手が「イエス」か「ノー」で答えられるようにもっていく方法もあります。例えば「次回の会議は7月3日(火)14時から第2会議室で行いますが、よろしいでしょうか」。このように先に概要を伝え、それでよいかどうかの判断を相手に仰ぐようにすれば決定も早まります。プランAのほかにプランBを提案するという場合は「飛行機もご利用いただけますが、天候が気になる場合は新幹線の方が確実です。いかがいたしましょうか」という尋ね方もあります。このように相手が判断・決定できるように「Aの場合とBの場合では、どちらにしますか」と問い掛ける形式にすると、やり取りがスムーズになります。まずは「~してください」を「~していただけますか」に変換することを覚えておくといいですね。
<依頼上手な言い回し方>
× 下記の点を修正してください。
〇 下記の点を修正していただけますか。
× 販促用チラシを20部、送ってください。
〇 販促用チラシを20部ご送付いただけますか。
気を付けているつもりでも、うっかり口にしたり書いたりしているのが二重敬語です。例えば「山田部長が会議は15日でよいとおっしゃられていました」という一文。「言う」の尊敬語は「おっしゃる」。その過去形は「おっしゃった」です。この場合は「おっしゃっていました」とすればよいところを、尊敬の「~られる」を付け加えてしまっています。このようにすでに敬語に変換されている言葉に、さらに尊敬の「~られる」を付けると二重敬語になってしまいます。上記の一文は「山田部長が会議は15日でよいとおっしゃっていました」とするのが適切です。「おっしゃられる」のほかに「いらっしゃられる」も同様の間違いです。「いる」や「来る」の尊敬語として「いらっしゃる」を使いますが、それに尊敬の「~られる」を付け加える必要はありません。過去形にする場合も「部長は会議室にいらっしゃいました」「昨日、社長が本社へいらっしゃいました」のように「いらっしゃった」や「いらっしゃいました」とするのが適切です。「山田部長は事前に先方の資料をご覧になられていました」という一文も二重敬語になっています。「見る」の尊敬語は「ご覧になる」。その過去形は「ご覧になっていた」ですが、上記の文ではさらに尊敬の「~られる」を付け加えて「ご覧になられていた」となっています。余計な敬語は除き「山田部長は事前に先方の資料をご覧になっていました」とするのが適切です。過去形の文を敬語に変換する際、本来は不要な尊敬語を付け加えて二重敬語にしてしまう傾向があるので注意が必要です。「資料を見ますか?」の尊敬語は「資料をご覧になりますか?」。過去形の「資料を見ましたか?」の尊敬語は「資料をご覧になりましたか?」です。尊敬の「~られる」を付けると、なんとなく敬語として収まりがよく感じられますが、敬語を幾つも重ねれば丁寧になるというわけではありません。むしろ敬語を過剰に使うほど、相手に対して失礼な印象を与え、逆効果なこともあるので気を付けましょう。
<尊敬語を使うときの注意点>
■「資料を見ますか?」
〇 資料をご覧になりますか?
× 資料をご覧になられますか?
■「資料を見ましたか?」
〇 資料をご覧になりましたか?
× 資料をご覧になられましたか?
※いずれも尊敬の「~られる」は不要
次のような質問を受けました。「受け取ったメールに誤字や明らかに使い方を間違えている言葉が含まれていることがあります。こういう場合、間違っていますよと指摘していいものかどうか迷います。生意気だと思われるのも嫌だし、私だって間違って使っていることがあるかもしれないので、たいていは知らん顔をしているのですが、誰かが間違いを教えてあげないと、いつまで経っても気付かないままのように思います。こういう場合の角の立たない、何かよい言い回しはないでしょうか」。確かに相手の誤字や間違いが気になっていても、指摘すべきか迷うことがあります。社外の相手とのやり取りで、名前や社名、役職名、商品やサービス名といった固有名詞が一度ならず二度、三度と間違いのまま使われている場合は、相手が間違いに気付かず入力している可能性が高いためできるだけ相手に知らせましょう。伝え方としては、用件の後に「ところで、私の名前は△△ではなく□□です」や、「恐れ入りますが、当社の製品名は□□ですので、訂正をお願いいたします」といった具合に伝えましょう。上記のような固有名詞以外の間違いで、相手が字や名称、言葉の使い方を間違えており、そのままにしておくと誤解を招いたり、トラブルになったりする恐れがある場合も相手に指摘する方がよいでしょう。指摘の仕方としては「一点確認ですが、先ほどのメールにあった△△△の表記は□□□ではないでしょうか」と問いかける形の文にします。間違いを指摘するとき、あからさまに「あなたの表記は間違っていますよね。先ほどのメールに書いてあった△△△は□□□です」と相手を責めるような言い回しにならないようにするのがポイントです。指摘された方も素直に受け入れにくいからです。また文の大意に差し障りのない助詞・助動詞の使い方ばかり細かく指摘する人もいますが、これもNGです。文章の添削や間違い探しに時間を費やすことは避けましょう。
<誤字や間違いの上手な指摘の仕方>
× 先ほどのメールの表記は間違っています。
△△の表記は□□ですよ。
〇 確認ですが、先ほどのメールにあった△△
の表記は□ではないですか?
〇 先ほどのメールで気になったのですが、
△△の表記は□□ではないでしょうか?
ご確認をお願いします。
新入社員を迎えるとともに、会社では離職・退職する人も多く見られ、人の入れ替わりが活発になる時期です。卒業や送別の際に使われる「はなむけ」という言葉。意味を理解して正しく使っていますか?「はなむけ」とは「馬の鼻向け」の略です。かつて旅立つ人のために道中の無事を祈り、その人の馬の「鼻」をこれから向かう目的地の方向に「向け」てやる習慣を「鼻向け」といいました。転じて、送別の際に贈る言葉や金品のことを「はなむけ」といいます。漢字では「鼻向け」「餞」と書きますが、新聞表記では「はなむけ」と平仮名表記で統一されています。また「はなむけ」を送る人に対してではなく、新たに迎える人に対して使っているケースがあります。門出を祝う言葉という意味から祝いの席で使う言葉と勘違いし「新入社員へのはなむけの言葉」と使うのは間違いです。「はなむけ」は旅立つ(別れる)人への言葉であり、新たに人を迎える場合は「新入社員へのあいさつ」「新入社員への言葉」とするのが適切です。会社では異動する人や離職・退職する人に対して使う言葉が「はなむけ」なので、異動してきた人や新入社員には使わないように注意しましょう。
では、相手の門出や旅立ちに際し、気持ちを言葉にして「おくる」という言葉の使い分けはできていますか?「おくる」には「贈る」と「送る」の2通りがあり、それぞれに意味が異なります。
「贈る」は、感謝や祝福の気持ちを込めて人に金品などを与えることです。旅立ちを祝う気持ちを込め、メッセージを相手に伝える場合は「はなむけの言葉を贈る」のように使うほか「創立記念式典で祝辞を贈る」と式典や表彰でも使います。対して「送る」は、去り行く人に別れを告げるときに用いる言葉です。「卒業生を送る言葉」「退職者を送る言葉」のように使います。「贈る言葉」が祝辞や賛辞という意味なのに対し「送る言葉」は送辞という意味の違いがあります。ちなみに、お祝いの電報「祝電」は直接、手渡すわけではないので「送る」を使い「祝電を送る」とします。
<「はなむけ」と「贈る」の使い方>
■「はなむけ」
× 社長が新入社員にはなむけのあいさつをしました
〇 来月、独立する山田さんにはなむけの言葉を贈りました。
■「贈る」
●嫁ぐ娘に父親が贈る言葉
●永年勤続表彰者へ贈る言葉
東京税理士会所属
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